第1回 ライブ観戦記 渋谷オーケストラ 前編 その1
「渋谷毅(たけし)オーケストラ観戦記 前編
~2008.12.25@杜のホールはしもと~」
McLean Chance、渡部信順
はじめまして。私たちは、「紙のジャズ」というジャズを研究するグループです。現在5名が参加しております。私たちの目指すところは簡単でありまして、音楽をきちんと聴いて、論じましょう。ということであります。とはいえ、ジャズという音楽、得体の知れない怪物であることこの得なく、ジャズだけを聴いていてもわかりません。ですので、クラシック、現代音楽、黒人音楽、ロック、ノイズ、即興音楽となんでも聴いて論じていくこととなります。今回は、日本を代表するビックバンドである「渋谷毅オーケストラ」のライブを聞いた直後に自由に論じ、その前半をお送りいたします。それでは、どうぞ。
ドラムについての考察
McLean Chance、(以下、MC) 今回は私と渡辺君のデュオでやらさせていただきますが、どうでしたかね、渡部君は初めてですよね?
渡部信順(以下、渡) そうですね。しめる部分と緩める部分の上手な折衷がね。
MC はいはい。
渡 つまり、ピアノって言う楽器は、コードを打てる楽器であると同時に、リズムも打てる楽器でし
ょ?
MC うん。そうだね。
渡 ピアノってのは、全体の雰囲気を作ると同時に、リズムも作れる便利は楽器だけども、渋谷さん
は最低限度の役割しかやってないんですね。それで、上手に締めをあたえると、同時に、緩みを与
えて、思いっきりオケを遊ばせる。そこが楽しい。とても堪能できましたよ
MC うーむ。
渡 多分、アレンジにしても、大枠しか決めていなくて、後は細かく決めてないんでしょうね。
で、そのなかで遊ばせる。遊ばせたら、こっち(渋谷さんが)が軌道修正する。
そういうね、懐の深さを感じましたけど。特に、一番最後の曲で感じたのが、渋谷さんがオルガ
ン弾いたでしょ?オルガン弾いたときにね、ほとんど弾いてるのが、コードにテンションをのっけ
て鳴らすのと同時に、グリッサンドで遊ぶ。まさに、「締めと緩み」なんだよね。コードで、雰囲気
を作って、グリッサンドかけてちょっと遊ぶ。その繰り返しによって全体像を作っていく。
MC なるほど。やっぱり、ライブだったってこともあるけれども、ビックバンドとって言うのは、見
るとホントに何やってるのかよくわかる。
渡 ホントね。よくわかるね。
MC 私も初めて見たんですが、「渋さ知らズ」とか、他の活動のものは聴いていたのですが、ただ、
リーダーのものは全然知らなくて、どういうことやってんのかなあ、と、思ったんですよ。
渡 ほお。
MC で、たしかに予想通りだったなっちゅうとこともあったんですね。
渡 というと?
MC あんまり自分の型にガチッとはめないで、好きにやらせている。特に、好きやらせているのは、
明らかにドラムですよね。
渡 うん。そうそうそう(笑)。
MC あのドラムは、ある意味好き嫌いがわかれますよ。
渡 それを許しちゃってる。
MC 許しちゃったんだね。
渡 そうそう。あとは、ベースと俺で何とかするからさ。というか。
MC 普通にリズム、キープしてる部分でも、古澤さん(注・古澤良治郎)はですね、大変ベテランの
方なんでけども、正直、おぼつかない所がかなりあったじゃないですか。
渡 (笑)、まあね。
MC 果たして、あのリズムが、ホントにあってるかと言うことで考えると、正直微妙なところがあり
ますよ。ベースだって、ホントにエレキでいいのかどうか疑問があるんだけども、とにかく、あん
まり上手じゃない。上村さん(注・上村勝正)のベースと古澤さんドラムは、ハッキリ上手いとは
いえない。ああいうスタイルは一向に構わないんだけども、それが渋谷さんの音楽とこのドラムが
合ってるのかというと、私は合ってないと思う。
渡 ほう。
MC 日本で言ったら、芳垣安洋であるとかの方が、もうちょっとシャキッとしたでしょうね(笑)。
渡 たしかに、感じるよね。
MC このドラムがいかがなものか、と私はかなり感じましたが、ところがどっこい古澤さんはですね、
宣伝のチラシに書いてある略歴をみると、結成当初(注・1986年)からいるんだよね(笑)。
渡 はっはっはっは。
MC 当初、どういう音楽をやっていたか、私はわかんないんですよ。仙人みたいになっちゃった古澤さんしか知らないので、何ともコメントできないのだけれども、現在の彼のありようっていうのは、渋谷さんのあり方とは違うと思う。明らかに。渋谷さんはやっぱり、極めて上品なジャズを追及なさっていると思うんですよね。
渡 渋谷さんのエリントンには愛情感じるね。
MC 感じますでしょ?ビックバンドやってる人はエリントンってのは絶対にはずせないと思うんで
すよ。彼は、「エッセンシャル・エリントン」というのやってらっしゃって、アルバムもだしてるの
ね(注・2009年5月までに『エッセンシャル・エリントン』『アイランド・ヴァージン』『Songs』を発表)。つまり、このピアノを聴くとジャスのエレガントな部分をね、すごくやりたいと。
渡 そうだね。
MC なんというのか、日本の風土に根ざしたような(笑)、独特のフリージャズみたいなものとは
多分、一線を画している。ところが、古澤さんのドラムというのは、まさにその典型みたいなドラ
ムであって、正直、僕の趣味からすると、合わないな。ということでね。
渡 なるほどね。
MC ライブの休憩時間に中村八大の話をしたでしょ?私が今までで一番渋谷さんを堪能できたのは、大友良英さんがプロデュースした、『See You in Your Dreams』という、中村八大作曲集のアルバムがあって、全編にわたってさがゆきさんが主役なのですが、伴奏として一番際立ってるのが渋谷さんなんですよ。非常に控えめで、上品なんですよね。だからドラムはそれにあったもんじゃないと。
渡 まあ、そうなると…
MC 芳垣さんはそれこそ、ROVOだろうと、南博トリオだろうと、ONJO(大友良英ニュージャズオーケ
ストラ)だろうと何でも出来るからね。これに対して、古澤さんはイディオムが豊富とも思えない
し、あの叩き方しかできないんだと思う。
渡 あんまり多いとはいえませんね。
MC ある種の「部族の言語」を語るって言うんですかね。
渡 笑っちゃうのが、渋谷さんがそれを許しちゃってる。
MC 許してますねえ(笑)。
渡 あれでいいよというか。
MC いいんでしょうね。
渡 それを許しちゃうってことは、ゆとりがあるんでしょうね。
MC 嫌そうな顔もしてないし。
渡 それでいいよみたいな。あと俺やるみたいな。
MC マイルス型のリーダーだったら、おそらく、古澤さんタイプの人は、「自分の美学に合わない」
ってことで解雇だろうし、そもそも声もかけないだろうし。
渡 そうだよね(笑)。
MC 渋谷さんは、そういう方じゃないんでしょうね。解雇しないでずっと使い続けているってことは。
バンドの推進力としての役割は放棄してもよいといっているフシすらありますよ。
渡 うん。なんかね。
MC 好きなように、ただ叩いていろというか。自分の言語体系で叩いているだけで、周りの人と合わ
せようとフシもない。でね、おそらく、このオーケストラってあんまりリハーサルしてないんでし
ょうね。
渡 してないと思う。
MC それぞれ自分でバンドを持ってるような人たちがメンバーですから。
渡 へたすると、全然やってないとか。
MC それはないと思うけども(笑)、会場で打ち合わせして、ソロ回し決めて、音合わせて、くらい
なのかもしれませんね。演奏する曲も、新曲をガンガンやってるようにもみえないし。
渡 前半が自分たちのやりたい曲で、後半が定番でしょうね。後半が真骨頂でしょうね。
MC そうでしょうね。特にエリントンの「シェイクスピア組曲」の抜粋とニューオリンズ・ジャズの
「ジャズ・ミー・ブルース」がよかったね。
渡 そうですね。肩肘張らないゆるやかな演奏なんですけども、くずれない。で、やっぱり、エレガ
ンスも追求しているんでしょうね。
(前編 その2に続く)
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