2010年8月16日月曜日

第6回 クロスレビューKip Hanrahan”A Thousand Nights and A Night (Shadow Night 1&2)”(American Clave)

Disc 1
1.Shahrazade and the Opening of the First Shadow Night(Kip Hanrahan/Micheal Cain)

2.Blue Shalima’s Tale, Opening

3. Blue Shalima’s Tale,Continuing(Kip Hanrahan/Micheal Cain)

4.Shahrazade’s First Shadow Night Lover

5.The Blonde Woman Escape.

6.The Hasheater At The Gates of Summmer City(Kip Hanrahan/David WeisBerg)

7.The Hasheater in Judgement

/ and the Revival Thousand Pound Elephasnt(Kip Hanrahan/David WeisBerg)

8.A Woman’s Trick

9. Ghanim ibnAyyub’s Tale and Kut al-Kulub(Kip Hanrahan / Steve Swallow)

10.The Jewish Doctor’s Tale The Continue

11.Haharazade Adrift

12.The Sleeper Awakened

13.Zummarud’s Tale Cotinues with The Thieves

14.The Blown Eyed Woman Escapes

15.The Red Headed Woman Remains with the Merchant

16.Shahrazade and the Closing of the First Shadow Night

(Kip Hanrahan/Brandon Ross/Micheal Cain/Henry Threadgill)



Personel :

Carmen Lundy(Blue Shalimah,Zummarud), Jeniffer Resnick(Shahrazade),

Charles Neville(Ghanim ibn Ayyub, ts), Micheal Cain(p), Don Pullen(p),Steve Swallow(b),

Andy Gonzalez(b), Robby Ameen(trap drums, hand claps),

El Negro Horatio Hernandez(trap drums), JT Lewis(trap drums), Milton Caldona(chekere),

Paoli Mejias(chekere,congas), Anthony Carrillo(chekere), Richie Flores(congas),

Puntilla Orland Rios(congas, hand claps), Abraham Rodriguez(congas, hand claps),

Eric Valez(congas), Kip Hanrahan(pers, hand claps), Alfredo Triff(vln), Brandon Ross(g),

Henry Theadgill(as)





Disc 2

1.Shahrazade Watches Birds Through an Alabaster Cealing

2.The Jinniya Sleeeps on the Alabaster Cealing, the Coolness of the stone…

3.Birds Through the Alabaster Ceaing

4.”The Illusion of Commerce”, Part One of Shadow Nights-2

5.”Jinn of Class”,Part 1 ofShadow Nights-2

6.”The Lies of The Possibility of Fairness in Contracts in Capitalism”,

The First Part Part of Shadow Nights-2

7.”Fear”, Opening

8.Commerce

9.The Tales of the Youth Behind Whom Indian and Chinese Music was Played, and The Tales of the Jaundiced Youth

10.Accurracy of Location in Shahrazade’s Shadow Night

(Kip Hanrahan/Richie Florez/Anthony Carrillo/Robby Ameen )

11.”Faith and Resolve”, Parts One and Three of Shadow Nights-2

12.The Man Who Stole The Golden Plate From Which The Dog Had Eaten

13.Ishaak of Mosul, His Mistress and The Devil

14.Shahrazade and the Forming of the Next Day





Personel :

Erica Larsen(Shahrazade), Don Pullen(p,org), DD Jackson(p), Fernando saunders(b),

Robby Ameen(trap drums, hand claps), El Negro Horatio Hernandez(trap drums), JT Lewis(trap drums), Paoli Mejias(quinto), Richie Flores(quinto), Anthony Carrillo(congas), Alfredo Triff(vln),





Recorded in between July 1994 and March 1998

at SterlingSound Studios and RPM Studios, New York

All songs written and prodused by Kip Hanrahan









McLean Chanceの場合



キップは随分損をしていると思う。そのテクストの莫大さ。インテリを喜ばせる言説に満ちたパッケージ。それはよきにつけ悪しきにつけ。ではあるけども、キップの場合は、マイナスに働いてる気がしてならない。いわく、ゴダールの助監督をしていただの、テオ・マセロとの関係云々云々。

私もそういう話は好きなほうだし、どちらかというと止まらない性質の方だが、そんなことは、この圧倒的な音楽の前では二の次、三の次なのではないか。

キップが作曲・製作したアルバムは、一貫してラテン/アフリカ、ジャズへの強烈なこだわりが感じられるが、本作もまたそれは濃厚で、ドラム・パーカッション奏者として、キップを含めて11名が参加し(全員が一緒に演奏する曲はない)、異様なまでの興奮と狂想を聴き手にもたらす覚醒効果が満点であるが、これにドン・プーレンのピアノやオルガンの、こねくりますような激情ピアノが絡むと、叫び声を出さざるを得ない。

キップは自らほとんどプレイしないが、どこをどう切っても彼の音楽である。彼は相当なインテリであろうけども、なにかいつも落ち着きがないというか、他人からうかがい知れないような焦燥感みたいなものに駆られて走り回るように音楽をつくっているような人だ。

かと思えば、ふっとチャールズ・ネヴィル(そう、あのネヴィル・ブラザーズのですぞ!)が、情けないヴォーカルとウットリするようなテナーをプレイを交互に流したり、常人では考えつかないような人選で、全く独自の音楽を提示するキップを、私は、完全に信頼しきっている。

私がとりわけ感動するのは、2枚目の1から9曲目の、一見、録音の断片を乱雑に貼り付けたような一連の曲の連なりだ。キップをジャズの人と限定するのは無理があるが、これはまごうことなきジャズの興奮そのもの。大音量で聴いて御覧なさい。そのカタルシスたるや。

だだ、危険もある。こういうやり方は、ともすれば、単なる知的な操作でしかなくなり、たんなるシラケに陥りかねないのだが、キップの場合は、音楽への桁外れな愛や情熱が、そうならないギリギリのところに踏みとどまらせているのだと思う。

結論を言えば、キップ・ハンラハンは目で聴くのではなく、耳で聴かねばならない。心して聴かないとすっ飛ばされますぞ。



マサ近藤の場合



 ~この人をみよ~ 





 それを意味する言葉は、我々の中で同一のイメージは共有されず、水に投げられた小石がつくる波の輪のようにだんだんと精彩を欠き、いずれは無意味になってしまう。仕方がないことだが・・・





 唯一絶対たるアッラー、尊敬するに値する/したスルタン、美しい生娘、魔人や魔法、こういったものが行間に詰め込まれているものが偉大なる古典、『千一夜物語』であるとして、キップ・ハンラハンのそれはどうだろうか? 夢のような色彩は我々の科学、我々の希望によってひどく歪められたものになってしまったのだと溜息をつきたくなるかも知れない。だが、そこは履き違えてはならない。キップ・ハンラハンという芸術家は、我々にノスタルジアという避難口を用意してはいない。彼は我々を‘現在’に(もちろん、少しではあるが未来のためにも)繋ぎとめようとしているのだ。





 おそらく、彼は純粋に自分の身の丈に合ったものを創造しようとしているだけだろう。だが、我々は身の丈に合った服装は選ぶのに、身の丈の表現を行うことから逃避してばかりだ。





おわかりだろうか?キリスト対ディオニソス…





渡部信順の場合



キップ・ハンラハンはやはりジャズだと思う。

ただしキップの音楽的な方法がジャズだと言い切ると、抵抗のある人が多いと思うが、出てくる音楽の興奮はジャズのものなのね。

この“A Thousand Nights and A Night(Shadow Night 1&2)”という2枚組の大作は、初めから異様な緊張感に支配されており、聴いているうちにだんだん尻の穴がむずがゆくなってくる。これこそジャズの興奮。

恐らく自分の好きな音楽をどんどん追い求めた結果、こういう音楽に辿りついたのだろうと思うのだが、パーカッションの雨あられによって興奮が昂められても、不思議にキップの音楽には不思議と冷静さが同居している。こういうところに都会的なセンスを感じるのだけど、本人はそんなことにお構いなく豪奢なリズムやいろいろな音楽を乱暴にして繊細に散りばめていく。

いわばキップのこの音楽は、料理のフルコースに近いのだ。

最初に前菜が出て、スープが出るが、そこからもう工夫満点。

最後のメインディッシュまで、どうやって客を引っ張ってやろうかという遊び心が至るところに涌き出ているのだから。

この人、当代随一のシェフなのだと思うのだけど、いかに工夫や努力がバレないように遊んでやろうかと、手を変え品を変え、あらゆる手練手管を駆使して、聴き手を催眠術にかけるかのように、快楽の奈落へ引きずりこんでいく。

アートが本然的に持つ「闇」というのは、けっこう危険なもので、不用意に入るとなかなか上がってこられない。ジャズには少なからずそういう要素が濃厚あって、今のジャズシーンに不足しているものこそ、そういう「闇」だと思う。

そういう意味でマイルス・デイヴィスという人は危険な存在だ。試しに『ゲット・アップ・ウィズ・イット』を聴いてごらんなさい。『マイルス・アット・フィルモア』にズッポリとハマってごらんなさい。恐らくは死ぬまでジャズとつきあうハメになるでしょう(笑)。そういうところがマイルスだし、またマイルスの持つ音楽の危険さだと思う。

それと同じことがキップ・ハンラハンの本作にも。一度ハマったら抜けられない。2枚組あっても長さは感じず、最後まで持っていかれる。わからなかった人も虚心坦懐に何度でも聴いてみるとよい。すると今まで聴いていた音楽は何だったのかと思うに相違ない。今が夏なのか冬なのかもわからなくなり、時間の経つのも忘れることだろう。そういう毒のある音楽、甘美で危険な闇を持つ音楽、それこそがキップ・ハンラハンだ。

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